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REPORT

KDA2021

審査結果と講評

Posted on 2022.2.16 Last Update 2022.2.22 Author Organizer Tag KDA

KD最優秀賞

榎本 直子

「水のない水路を引く / 近くて遠い小学校で藍染川を隠す」


KD優秀賞

松本 乙希

「真鶴を継ぐ / 修繕によって蘇る採石場の新たな風景」


KD奨励賞

太田 匠

「弔いの聚落 / 空間化された墓の群れで成す新たな都市のランドスケープ」

渡邉 優太

「欠損、隠見により補われ続ける下北沢 / 図書館×住居」


KD特別賞

金 雪寅

「残像交互に滲む / 水彩の特徴を応用した空間設計」


受賞者と審査員の皆さん

KDA2021は昨年に続きオンラインをベースに開催されました。
本来は、出展する学生に加え下級生なども会場入りし学生と審査員との生のやりとりが行われるのですが、昨年に続き今年も完全なかたちでは叶いませんでした。
しかしながら、先生方のご理解やご協力の下、出展学生のうち1次審査通過者(14人/29人)に限っては2次審査以降会場入りすることが許され、審査会後半の最終局面においては学生と審査員による対面でのトークセッションを行うに至りました。
ご協力いただきました先生方にはこの場をお借りして御礼申し上げます。

さて、卒業設計では問題意識、目的、手法、応用展開、成果の検証などの一連のストーリーを各学生が自分で設定し組み立てていくため、作品を並列し比較や評価をすることは難しくなります。
そこで司会として、審査員の方々には評価軸の設定について意識的に審査に取り組んでいただきたいと伝えました。序盤には「時代性」、「テーマ」、「一貫性」、「完成度」、「かっこよさ」、「手法の汎用性」などが挙がりましたが、なかなか抽象的であり議論は多岐にわたり盛り上がりました。
卒業設計に限らず僕が常日頃学生に期待しているのは空間の”切れ味”です。具体的には、”現代の人の活動にどのような作用を与える空間もしくは建築的な構成”がつくられているか、それに対しての切れ味です。杉本先生が「そのものが伝える力」と仰っていましたが、まさにその通りです。また、そこが学生にとって審査員(建築家)と対等(もしくは優位)でいられる部分であると思いますし、そこでの議論が一番楽しい。
かたや、卒業設計に取り組む上での意義や態度がどういった社会性を持っているのか、問題定義やストーリー、完成度もとても重要です。独りよがりな提案では社会から価値や意味を見出されることが難しいからです。しかしながら例年、それらが優先され”切れ味”の探求が乏しい作品が少なくないと感じます。建築はやはりつくられた空間や構成があっての話なので、学生には勇気をもってそこで戦ってほしいと思っています。
今後、学外の審査への出展、進学や就職など新たなステップに進む学生が多いと思います。
いずれにしても卒業設計で取り組んだことを振り返り、自信につなげて前に進んでもらいたいと思います。

以下、選抜講評

榎本案(最優秀賞):川が暗渠化されその上に街が発展していった時間の蓄積を掘り起こし、そこに建築を当てはめていく一連のプロセスに美しさを感じる。川の線形とそれに影響を受けた街並みの要素を用いることで空間構成に必然性を与えている方法論も秀逸である。また、構成と街との関係からプログラムを導き出すプロセスはユニークであり、建築と街との関係に新たな希望を与えているようにも感じられる。ただ、ひとつのルールが確立することで全体がある程度自動的かつ反復的に生成されているように見え、少し物足りなさを感じるのはいささか求めすぎだろうか。

松本案(優秀賞):”山の稜線を修繕”、”屋根によって継いでいく”というセンテンスは魅力的であり、全体のストーリーもうまく補完されているレベルの高い作品。その上で、山、採石痕、建築などの異なるスケールや背景の交錯などによるもっと建築的な空間の提案や説明ができると良かった。全体のストーリーとの調和に拘り過ぎて切れ味が鈍くなってしまったように感じられたのが勿体ない。

太田案(奨励賞):墓地を建築的な操作によってかつて日常生活と地続きであったであろう都市機能に帰すような試みは興味深いが、その手法は記号的かつ独善的であるように感じた。もっと墓地や墓石の成り立ちや形式などに寄り添った上で新しい日常の景色を見せることができれば説得力を得られたのではないか。

五十嵐案(認知外境界を解く):強いものをつくらずに一見弱いもので現代の都市をジャックするイメージは興味深い。ただ、既存建物のスケールから逸脱していないため寄生に留まっていて、家具やインテリアに近いものに見えてしまっているのが勿体ない。もっとジャンプしても良かった。

後藤案(雑踏の間隙):面構成の空間にワイヤーフレーム状の言わば空間の虚像のようなものをオーバレイすることで、空間の輪郭認識に多義性を与える手法の提案は興味深い。ただ、実像と虚像の主従関係が一定ではなく反転するような操作にまで発展できると”認識”に留まらない新しい空間構成やアクティビティの提案に発展したのではないか。

菅谷案(下北裏街):卒業設計のひとつのスタイルとして主観的な視点から都市を再記述するというものがある。この作品の、存在するであろう街の背後を知覚させる空間をつくることでその街を再記述するといった世界観は興味深い。しかしながら、背後と呼んでいるものの設定の精度、その要素からどういった空間モデルが考え出されるかなど、再記述する上でのプロセスをもっと突き詰めていくことができると良かった。

司会進行

伊藤州平

81A- 主宰

2003年 東海大学工学部建築学科卒業
2005年 東海大学大学院工学研究科建築学修了
2008年 シーラカンスアンドアソシエイツ入所


審査員講評


杉本洋文

計画・環境建築 代表取締役会長

1976年 東海大学大学院工学研究科建築学修了
1976年 計画・環境建築入所
2004~19年 東海大学工学部建築学科教授在任

KD賞2021審査会は、久しぶりに学生の作品に触れる機会となった。今年度の学生はコロナ禍で2年間に渡り設計の授業がハイブリッドで実施されたので、学生は勿論のこと、先生方の指導にも苦労があったと思う。卒業設計は大学4年間の建築の学びの集大成であり、1年をかけて独自の建築作品を手掛ける。将来、建築設計の道に進む学生は、建築を創造する一連の手順を経験する貴重な機会となる。

私は卒業設計を「一人旅」に例えている。学部の設計課題はテーマ・場所・プログラム等を同じ条件の中で一緒に取り組むので「グループ旅」と考えている。一方、卒業設計は、自分自身で課題設定から最後まで完成させなければいけないので孤独な「一人旅」である。旅のテーマや旅先を決め、リサーチを経てプログラムを作成する。そして実際の旅の場面では、プログラムとは異なるイベントに出会うことによって体験が増幅され、旅は豊かになり、旅の総体を自分自身で総括することができる。この一連のストーリーが類似している。

KD賞は、学科とは異なり現役の建築家が審査するのが特徴で、進行役の伊藤州平さんは、多様な議論の場を提供し、各審査員の意見を交わしながら、それぞれの作品の良さを発見し、今求められている建築、多様な社会における建築、そして未来を見据えた新しい建築の在り方など、最終審査の結果より、学生のオリジナリティや作品そのものが備えている課題の捉え方や建築の提案内容など、多義に渡る議論が展開された。

今回、作品の特徴をいくつかの視点に分けて整理する。

1.場のコンテキストから空間化している作品:
榎本案・北村案・佐藤(裕)案・菅谷案・徳留案・松本案

2.プログラムから空間化している作品:
岩瀬案・小松案・小林案・木村案・斉藤案・須藤案・清水案・夏目案・倉光案

3.空間認識から空間構造を提案している作品:
五十嵐案・大星案・金澤案・金案・後藤案・土谷案・堀内案・村上案・村田案・渡邉案

4.社会の特異性から課題解決を図る作品:
太田案・佐藤(拓)案・鈴木案・林案

である。

特に優れた作品として、木村案は生活景から住宅地更新の計画で、スケッチによるフィールドサーベイ分析は説得力がある。鈴木(拓)案は調整池と周辺地域の水没に着目した点が面白い。金案は自身の空間構築のプレゼンテーションに説得力がある。太田案は都市内の墓地に対してランドスケープの手法によって新たな場を創出している。渡辺案は空間の欠損と陰見による空間補完の手法で空間構築されている。それぞれに評価できた。

特に、榎本案は住宅地内をかつて流れていた川の記憶を発見し、半地下空間に学校のプログラムを展開させながらストーリーのある空間を住宅地に中に組み込めたのが魅力的で、審査員全員の票が入ったので最優秀賞に相応しい。私が1番惹かれたのは松本案である。真鶴町の石切場跡を「金継ぎ」の手法により線的に繋いで面的な土地の再生を図る建築の提案である。完成度の高いプレゼンテーションによって説得力のある作品となっており評価できるので、優秀賞に選ばれたのは納得がゆく。

最後に、1年間に渡り、長い苦しみを乗り越えた成果が建築作品に込められている。完成度には差が見られるが、建築設計の面白さは体験できたと思う。これからも建築家の道を目指してくれることを強く希望したい。


井上玄

GEN INOUE 主宰

2001年 東海大学工学部建築学科卒業
2001年 吉田研介建築設計室入所

卒業設計はテーマを自分で探すことから始まる。テーマを探す過程で自分自身の興味に出会い、建築の楽しさに目覚めるきっかけになって欲しいと思う。個人的な興味からスタートし、歴史的なサーベイや現状への問題提起を踏まえ、建築的な手法を用いて社会に影響を及ぼす提案をすること、私の卒業設計の評価軸であり、今でも一番大切にしていることだ。

一番ユニークなテーマ設定をしたのは大田さんの「忌いの聚落」だ。墓地を都市における可能性を秘めたヴォイドとして、墓石を自分のもう一つの家として捉えることで、公共の中に小さい私有地が高密度に点在する新しい公共空間の在り方を模索したレベルの高い作品だった。墓石とともにつくられた空間の設計手法の説得力は少し弱いと感じたが、暮らしや街から隔離されてきた墓地に家族の暮らしの一部を組み込み、墓石という小さい単位から墓地全体へ波及させることで家と街との中間的な「街の庭」がうまれた。同時に、他者と適度な距離を保ちながら同じ空間にいる、という新しい集まり方も提案しているのではないか?この新しい公共性は墓地を敷地に「忌いの聚落」をテーマに掲げ進めたからこそ見えてきたものだと思う。このプロセスは十分建築的で、強いメッセージ性をもつ優れた作品だった。

私が最も評価したのは榎本さんの「水のない水路を引く」だ。見えるけど行けない関係性や距離感に魅力を感じテーマとして選んだ。卒業設計によく見られる派手なテーマではないが、自分のテーマを魅力的に伝えるための丁寧な敷地設定や賢いプログラム選定、周辺環境の特徴を活かした空間操作が秀逸だと感じた。開くこととセキュリティのために閉じることの二面性を求められる小学校というプログラムを選び、地域の人に見守られながらも入れない「不可侵領域」と結びつけた。へび道とそれに対して開いた周辺建物を計画対象として生まれた不整形で長細い敷地の異なる周辺環境の特徴を捉えながら小学校の機能を分散した空間操作。既存の道路と接する部分には地域の人も使える機能が付加され、掘り下げることで計画地の両側に「不可侵領域」の関係が生まれるだけでなく、残された既存建物の裏面や残余空間に対しても新しい関係性を生み出している。このようにテーマだけでなく諸条件も自分で設定する卒業設計において、自分のテーマを最も純粋に表現できる敷地や用途を選び、自分の設計した小学校が既存の都市に挿入されたことによって周辺環境に新しい関係性を見出し変化をもたらした。一年間、様々な段階で迷い選択し進む中で一つのテーマにすべてを集約させたこの作品を私は一番評価した。

様々な評価軸があり、できるだけ多くの評価を理解する能力を身につけて欲しい。自分が評価されたか否かは問題ではなく、ある評価軸の意見を素直に受けとめる柔軟性は視野を広げることになる。一方、全ての意見を自分の案や考え方に反映させる必要はない。自分の直感を信じ強い信念を持って自分らしい提案をする社会人になってほしいと思う。


佐屋香織

PEAK STUDIO 共同主宰

2006年 日本女子大学家政学部住居学科卒業
2008年 日本女子大学家政学研究科住居学修了
2008年 山本理顕設計工場入所

卒業設計のことを今だに思い出す。当時の切羽詰まった想い、理解されないことへの葛藤や自身の客観性の甘さ、それでも信じたい建築の可能性。自分の価値観が、既存様相を変えられると盲目に考えていた。
いつの時も卒業設計というものは、その人の姿勢を問うような、これからの意思表明を確認するような、そんな空気感があって尊い時間である。ただその手がかりとなるはずの社会的価値観も個人的価値観も、この2年間で大きく揺らいでいる。大学生活の大半をその困難な状況で過ごしてきた彼らが、何を選択して何を手放すか、作品を通して再確認する有意義な講評会であった。

私が評価する上で大切にしたことは、リサーチやサーベイなどから導き出された「興味」や「意識」をもとに、どのように建築を作り出しているか、構築や検証の量、悩みも含めて、人を説得できる「リアリティ」があるかどうかである。
興味関心や問題意識を持つからこそ、今までなんとなく見てきた都市や建築に新たな切り口を見出すことができるのだと思う。

最優秀作品となった榎本案「水のない水路を引く」は、川の暗渠化によって、本来存在していた川との関係から反転したまちの様相に着目した特異性のある作品である。不可侵領域を失うとまちの領域や方向性のような都市認識が失われて均質化されていく、このローカルなようで普遍的な問題は、いかにその場所固有の風景を継続していけるかという問いかけのように感じられた。榎本案は、まちの都市認識の消失を川に見立てた建築を作ることで復活させ、半層下がったリニアな空間が蛇行しながら領域をつくり、周囲と繋がりながらも距離を保ち、子どもたちが自由に走り回れる新たな小学校空間をつくりだしている。このプログラムとして不可侵な小学校がひとつのリアリティを作り出し、案を強固なものにしたのだと思う。

そして、同じように特異性に着目し優秀作品となった松本案「真鶴を継ぐ」は、採石場の痕跡と山の稜線の修繕に、傷跡をぼやかすではなく敢えて顕わにする「金継ぎ」の手法に見立てた建築操作で、採石で栄えた真鶴の時代性を消すことなく、遠景の引き継ぎ方を提示した作品である。一次産業の衰退による真鶴町の山との繋がりが変わっていくように、時代ごとに選択される価値は変わる。失ったものを以前の価値に戻すというただの修復ではなく新たな価値を付加した新しい方向への修繕をするという一貫した彼の姿勢に共感した。ただ、採石場にセットしたプログラムが新たな場所や領域を建築として作り出しきれていないように見え、優秀賞となった。実際に訪れたときに感じる、それぞれの建築への提案にもう少し解像度が欲しかった良かったように思う。

奨励賞の太田案「弔いの聚落」は、谷中霊園内の墓を個人が所有する最小の居場所として、日常の延長の場として、墓地全体をランドスケープとして再構成した作品。都市部の墓地ならではの形式やスケール感、環境の良さといった特徴から、特異解になり得たが、個人が各々に作っていくという場所に建築的な形式やルールなど、計画としての提案を具体的に提示してほしかった。個人的には死生観を変えうるような切り口は、全作品の中でも最も秀逸であると思うが、フィジカルとして建築そのものへの期待がないように見えてしまった。

同じく奨励賞の渡邊案「欠損、隠見により補われ続ける下北沢」は、潜在的な人間の能力を呼び起こすような、領域認知に関わる作品である。下北沢の小田急線線路跡地を都市の大きな欠損ととらえ、そこに、内外の輪郭が曖昧な建築を周囲を補完しながら馴染ませている。欠損、隠見、空間補完を促す空間単位をキューブでつくりその集積としての建築は、そのを膨大なスタディの中から生まれた。結果として、全体がどのような空間になっているのか、おそらく魅力的な場所は作り出せていると思うのだが、操作をしていった結果としての建築になってしまったことが、惜しかった。

特別賞の金案「残像交互に滲む」は、水彩画の持つ透明性と流動性という特徴を翻訳し、奥行き方向に壁を重ねて有機的な穴をあけた美術空間である。一見すると暴力的なアプローチに見える作品であったが、模型に当たった光の入り方を見ると淀んだ場所と澄んだ場所が重なりながら展開していて、光の取り入れ方の可能性を感じた。その熱意あるプレゼンテーションからも、自分の作品を一番信じきっていたように思う。

選外となったが、木村案「暮らしを纏うまち」は、暮らしの豊かさの表出としての物や居場所の集積がどのような建築的操作から生まれているのかを分析し、計画としてどう新たな建築を導き出すのかという、大変難しく共感できるテーマを扱っていただけに期待値も高かった。住宅というプログラムは身近なだけに、リアルが幻想へ転がる可能性が高い。彼女のみつけたルール、それをただドライブするだけではリアリティを持った建築になりにくいと感じた。

一般的には問題とされない常態化している環境に違和感を感じたり、どちらを選択しても問題になりえない状況に危機感を感じたり、自分の周りの環境を受け入れるだけではなく、正当性という刀を振るうのではない、本来あるべき今はこうだったのではないかというパラダイムシフト的な仮説を持てる姿勢は、卒業設計に限らずに大切であると思う。
審査会には流れのようなものがある。だからこそ、学内の評価と異なる結果が生まれた。そういう意味では、評価というのは絶対的ではなく今回の結果だけで自分達の作品を決める必要は無い。最後までやりきれたことに誇りを持ってほしい。卒業設計での表明は、ずっと自分についてくるものである。


鈴木弦

Nowhere-Designs 主宰

2013年 東海大学工学部建築学科卒業
2015年 東京理科大学大学院建築学専攻修了
2018年 丹青社入社

大学における建築教育のひとつの集大成である卒業設計は、学生が初めて自由に“スタイル”を表現することができる舞台だと考えています。
ここでの“スタイル”とは、ファッションなどの文脈で用いられる“スタイル”から引用しており、表現を生業とする者が持つ個性=本当に表現したいモノ・コトを意味しています。

これまでの設計課題では、与えられた問題に対して建築を通して回答する“問題解決型”の思考が求められてきたかと思います。このような思考は一般的に、①概念設計(課題を解決するための手法の骨格、コンセプトメイク)→②構成設計(概念のアウトラインを形成するアイデア)→③デザイン(構成を美しく形態へ落とし込む)という流れを経て形成されると考えています。
それに対し、卒業設計ではこのフローの前段として、課題設定というプロセスが加わります。つまり、自ら課題や付加価値を掘り起して解決するという、“問題提起型”の思考が求められます。この考え方は、これからの社会にも通用する、建築設計を通して得られる重要なスキルだと感じています。
その意味で卒業設計は、一段階増えたプロセスを通して自身の感性を問い直し、“スタイル”、あるいはその原型を生み出す契機となったのではないでしょうか。

今回、“スタイル”を評価する軸として、「独自性(アイデアの秀逸さ)」「表現性(デザインの美しさ)」「発展性(提案ののびしろ)」という3つの要素に着目して審査を行いました。

私が注目した一つ目の作品は太田さんの「弔いの聚落」です。
墓地という特殊な敷地において墓石をストラクチャーと捉え、建築(らしきもの)を構成していく内容で、半公共的な中間領域が連続する風景に新たな“文化”が生まれる可能性を感じました。

二つ目は、菅谷さんの「下北裏町」です。
街なかに余白のみを用意するという、設計者の恣意性を限りなく排除し“使用者の行動にゆだねる”提案でした。アンダーグラウンドな文化が集う下北沢という場所性だからこその可能性を感じ、“こういう場所、あったら面白いな”と感じる提案でした。

三つ目は、村田さんの「路に滲む。都市の集うかたち」。
丁寧なリサーチと、ユニークな表現が印象的でした。全貌がよくまとまっていて、良い意味で“ありそうな”提案となっていました。空間の構成にもうひとアイデア加わることでより魅力的な提案になると感じました。

四つ目は、金さんの「残像交互に滲む」。
目を惹く模型表現と質疑応答では“絶対に伝えたいものがある”という熱量を感じました。問題解決を飛び越えて問題提起のみをしたような、アンバランスさが新鮮な作品でした。

他にも、村上さんの「内と外が反転する空間」での囲碁における石の置き方の手法を建築に応用する考えや、倉光さんの「滲み合い、つながり合う住宅群」におけるテーマ設定と設計手法、徳留さんの「継なぐ」で取り上げていた“五感を空間に落とし込む”提案など、それぞれが自分自身の表現したいことに挑戦する姿勢に、可能性を感じました。

最後に、総評でもお話しましたが、万人に好かれなくとも、一部の人に評価してもらえる作品でよいと思っています。最初はそれが1人でも2人でも構いません。卒業設計をスタートの舞台として、学生の皆様が“スタイル”を貫き、「建築を続ける」ことを願っています。


木村岳

KDA2020 優秀賞
AIS総合設計株式会社建築部本社設計室所属


2021年 東海大学工学部建築学科卒業
2021年 AIS総合設計入社

昨年審査される側にいた私が今回審査させて頂く上での評価軸として、調査したことをどのように解釈し、考え、建築に反映したかを重視して評価しました。

榎本さんの「水のない水路を引く」は、本来街の境界線となっていたり、空間を分ける働きを持つ川が暗渠化されたことによる街の変化に疑問を抱き、川としての独立した街の意識を取り戻そうとする提案がとても興味深かったです。暗渠化した川と暗渠に対して表を向いた建築による一つの空間に入り込む「余白」が、街との多様な距離感を作り出していてとても魅力的でした。また、地域における小学校の「近くて遠い存在」と川の持つ「不可侵領域」を重ね合わせ、平面構成だけでなく断面的にも川の持つ本来の思想を体現しているところが素晴らしいと思いました。

松本くんの「真鶴を継ぐ」は、金継ぎの思想を採石場に応用する事で、新たな真鶴の風景を作り出すという手法がとても独創的な提案だと感じました。稜線のようなランドスケープとしての地形と、採石によって生まれた人工的な地形を読み取り、建築として形にしていく事で新たなネットワークを創出し、本来人々が訪れることのなかった土地を生き返らせる手腕が秀逸でした。また、採石業が半永久的なものだと考え、プログラム面での新たな真鶴の生業の提案もされているところにも好感が持てました。

渡邉くんの「欠損、隠見により補われ続ける下北沢」は、欠損した物事を補完する人間の能力を空間の欠損に応用し、人によって感じ方が異なる多様な空間を生み出し、補完の作用が効果的に下北沢の街とリンクしている点が素晴らしいと感じました。

太田くんの「弔いの聚落」は、墓地に対する接し方、関わり方を長い時間軸で変えようとしていて、弔いから多様な行為へ拡張されていく提案にとても共感できました。墓石を柱に屋根が架かる墓地の風景はとてもインパクトが強く、特に印象に残っています。

五十嵐くんの「認知外境界を解く」は、床や壁にグリッドフレームが組み込まれることで下階や隣のビルとの繋がりが生まれ、多様な空間が街区内に広がる魅力的な提案でした。グリッドフレームのシステムから空間づくりまで一貫して取り組んでいる点にとても感心させられました。

夏目くんの「家郷の住み継ぎ方」は、本来近い関係にある本家のあり方を建築によって再構築しようとする考え方にとても共感できました。

今回の審査会を通して、多くの学生がモデリングやレンダリングに挑戦していて、とても感心していました。また、模型表現もよりリアルに表現された魅力的な模型が多く、審査していてとても楽しかったです。私自身とても良い刺激になりました。ありがとうございました。

今年度もコロナ禍での卒業設計ということで、思い通りにいかないことも多かったと思いますが、そのような環境下で最後までやり切ったということは今後の自信に繋がると思います。学生の皆さん、本当にお疲れ様でした。


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