惜別　佐藤光男先生

佐藤光男先生を偲んで

羽生修二

佐藤光男先生は、代々木校舎の第二工学部で共に研究室を構えていた関係で、いつもお世話になっていました。とりわけ、夜間の授業終了後に佐藤先生の研究室で「第三工学部」と称して、サロンが開かれていたことが忘れられない思い出です。授業が終わると、研究室では鍋やお酒がすでに用意してあり、われわれ専任だけではなく、非常勤の先生方や院生、夜間の学生も加わって、賑やかな宴会になることもありました。佐藤先生はいつも和やかな笑顔で私たちを待っていてくださり、用意された日本酒の解説をなさりながら、楽しそうに私たちを接待してくださいました。

この佐藤先生のサロンは、先生が退職された後でも私の研究室で受け継がれ、さらに私が退職した後も、少人数ながら中野駅近くのお店で定期的に行っていました。先生が2020年6月25日に八十八歳の米寿を迎えられるので、お祝いの会を開こうという話が出たのも、このお店でした。先生はとても喜んでくださり、場所も中野サンプラザで行うことに決まりました。

2020年2月13日、その「米寿の会」の打ち合わせで佐藤先生をお誘いして、池嶋さん、酒瀬川さんと共に中野サンプラザに集まり、最終的な確認を行った時に、先生からご病気のことを初めて聞かされました。私たち三人はショックで、言葉も出ない雰囲気でしたが、先生がいつものようにひょうひょうとした口調で、ご自分の病気のことを話され、まだまだ治療の余地があるのではないかと思っていました。そして、先生自身も7月に予定していたお祝いの会に出席するつもりで、引出物を何にしようかと楽しみに準備されていたので、その日もお酒を飲んでお別れしました。きっと神さまが、佐藤先生のご病気を治し、お祝いの会を無事に行えるようお計らいになってくださるだろうと、祈る思いでその日は帰宅しました。

しかし、残念ながらその日が佐藤先生とお会いできた最後の日となってしまいました。米寿のお祝いを目前にして、皆さんと久しぶりでお会いできるのを楽しみにしていた佐藤先生の笑顔は今でも忘れられません。さぞかし先生も無念だったに違いありません。

あれこれと募る思いが尽きませんが、佐藤先生が私たちに残してくれた数々の楽しい思い出に心より感謝の意を捧げ、先生が天国で永遠の安らぎを得ることができますよう、お祈りしています。

佐藤先生のお誕生日祝い　1998年6月25日　代々木校舎羽生研究室にて　(写真提供:羽生先生)

君、これからは設備の時代だよ!!

20CA1119 池嶋千里

「君、これからは設備の時代だよ」
「先生、私はどの様にしたら宜しいでしょうか?」
「先ずは、私の授業を良く聞きなさい」
昭和48年(1973年)4月上旬、2年生前期授業が始まって間もないH棟研究室で、佐藤先生と私の初めての会話。

始めて入った研究室。
研究室にいらっしゃった田中先生、松本先生、鈴木先生。
床には測定機器類、天井にはダクトが吊って有った。
東京オリンピックの代々木体育館設計に携わった話、完全には理解出来なかったが設備の世界に興味を持つには充分だった。

卒論、修論では、小中高校の使用水量や瞬時水量の測定を行った。高置タンク内に水圧計を入れて、データロガー記録用紙のドットの間隔から瞬時使用水量を推定した。地味な研究の中で楽しい思い出は、先生のご縁で早稲田大学の尾島先生の別荘をお借りしての夏休み数日間合宿生活。住宅公団の団地の数棟数ケ月分の記録紙の読み取り作業。数ケ月分のデータは巾4cm長さ数mの記録用紙を直径4cm程に丸めた円筒形記録用紙数百本。記録紙のドットの中から瞬時使用水量を読み取る手間の係る作業だった。

先生のご紹介で、ゼネコンの設計部と設計事務所の設備課で10年程勤務して独立して間もない頃、先生から声がかかり、代々木校舎第二工学部の非常勤講師をさせていただく事になった。授業後は先生方や学生達と第三工学部と称しての反省会。大抵はアルコール付で、アルコールと先生とのご縁は深い。大学では醸造学に進みたかったが父上の反対で建築の道に進まれたと。合点である。

退官後は第三工学部では総長になっていただき、ご自宅近くの横浜や中野で、年に数回、先生方や卒業生と反省会を行っていた。先生は、替え歌の作詞や季節とお酒の句を多くお作りなって、楽しそうに披露された。

「冬の夜は　おかんに限る　酒はなし　湯豆腐囲み　ホット一息」

米寿のお祝いを中野サンプラザで予約したが、直前にお亡くなり誠に残念。
佐藤先生の世辞の歌

「さていかに　あの世とやらの　すみごごち　住めば都か　戻りし人なし」

『　君、こちらの世界も悪くないよ　』　先生の優しい声が聞こえてくる。

佐藤光男先生　2020年3月9日ご逝去

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