お知らせ
REPORT

KDA2019

審査結果と講評

Posted on 2020.3.9 Last Update 2020.3.9 Author Organizer Tag KDA
審査員と受賞者の皆さん

2020年1月31日 KDA2019を開催しました。KDA(東海大学建築会卒業設計賞賞審査会 KDA)は、学科審査とは別に東海大学建築会が主催する卒業設計の審査会です。OBの建築家、前年度の受賞者を含む審査員に公開で審査して頂きます。今年はデザインの授業でお世話になっている非常勤講師の方々を審査員にお迎えしました。

審査員
彦根明 (彦根建築設計事務所主宰) 白子秀隆 (白子秀隆建築設計事務所主宰) 伊藤州平 (81A – 主宰) 佐屋香織 (ピークスタジオ共同主宰) 増田果子 (芝浦工業大学大学院所属/KDA2018 奨励賞)
司会
森昌樹 (MORIIS ATELIER主宰)

KD最優秀賞

佐々木 大樹 「空間を食べ比べるように」

小さな変化の連続が街をやわらかく繋げる

sasaki


KD優秀賞

星野 唯 「建築のアナログ化」

街の痕跡を残す持続的更新手法


KD奨励賞

前川 凌 「西戸部の笠」

基壇のまちの拠点となる少量多品種的空間


KD奨励賞

眞壁 弦汰 「商転街」

空間と機能が入り混じり生まれる新しい学びのかたち


KD特別賞

吉村 和馬 「新宿ケモノマチ」

人の軌跡から生まれる街のかたち


司会進行 /森昌樹

MORIIS ATELIER主宰

1995 東海大学工学部建築学科卒業
1996 青木淳建築計画事務所入所
2000 西片建築設計事務所入所

去る2020年1月31日(金)に湘南校舎17号館ネクサスホールにて2019年度KDA東海大学建築会卒業設計賞審査会を開催いたしました。計32作品を1次・2次・最終の3段階方式で審査を進め、最優秀賞・優秀賞・奨励賞×2・特別賞の5作品を選定いたしました。

長期間練り上げられた作品を数時間の審査会で評価を下す作業はかなりの労力を必要とするため、日頃の授業で学生に接する機会のある非常勤の先生方のアドバンテージを見込み、今年度の審査員はデザインの授業を担当して頂いている非常勤の先生を中心にお招きいたしました。

今年度は、参加作品が粒揃いであったことも重なり審査会は比較的スムーズに終えることができました。詳細は審査員の方々の講評に委ねますが、ここで当日の印象に触れておきたいと思います。ここ数年はリノベーションをテーマに置く作品が顕著にあらわれており、今年度はその傾向がより強く感じられました。「リノベーション」という設定が、上手く調査と結果をつなぎ、受け取る側に違和感なくテーマを受け入れやすくしているのだと思いました。今年度の受賞作もこのあたりを巧みに扱っており、デザイン・サーベイに重点が置かれ成果物との乖離を感じ得なかった数年前の審査会とは一線を画した印象を受けました。

卒制にかぎらず新しさを得るためには、主観的な視点が不可欠であると思われます。ですが、如何にそこから客観性を獲得し、個人の問題を大多数の問題へと昇華させることができるかという操作が必要であると思います。この点において受賞作の5点は他の作品に比べると抜きん出てていたのだと思いました。

改めて受賞者の佐々木さん、星野さん、前川さん、眞壁さん、吉村さんおめでとう御座いました。また残念ながら選出されなかった参加学生の皆さん、長時間お疲れさまでした。

審査員の皆様には気温の低い会場での長丁場の審査、懇親会での学生への労いをこの場をお借りしてお礼申し上げます。


審査員講評


彦根明 

彦根建築設計事務所主宰 

1985 東京藝術大学建築学科卒業
1987 東京藝術大学建築学科修士課程終了
1987 磯崎新アトリエ入所

卒業設計はたまに講師会などで目にしたりする程度でした。

 1~2年生の課題で見るような瑞々しい作品と比べるとコンセプトや言葉が空回りしているような印象を受けたものですが、今年はじめて審査をさせて頂くこにになり学生さんの言葉を直に聞く機会を得て見たものは、皆さんがそれぞれ自分の頭で考え自分の言葉で一生懸命伝えようとしている姿でした。

後から聞いてみると担当の先生方の指導が素晴らしかったのだということがわかりましたが、それにしても合計8時間に及ぶ審査があっという間に感じたのは凄いことだとあらためて思いました。

前川君の西戸部の笠は土地の特性を深く理解し、愛情をもって良いところを伸ばすような提案だったことがとても好印象でした。個人的には一番好きな案です。

杉村君の地平線の蘇生は目の付け所と経年変化の表現がとても良かった。

杉山君の渋谷川沿いの提案はどういう結果が出るのか、模型でしっかり表現できているところが素晴らしかった。

岡田君の相模大野伊勢丹は、模型を覗いたときに現れる空間がちゃんと魅力的に見えるのが良かった。

豊永君のすり鉢も思い描いた状況をしっかりと形にして雰囲気を充分に伝え得る模型を完成させていたことが素晴らしかったです。

大和田さんの港の施設は実際にできれば喜ばれるようなプログラムであるのに、テーマを祭に絞ったプレゼンが良かった。

吉村君はとにかくプレゼンが熱かった。納得していない審査員を説得するような気迫を感じる説明はこれからも大切にして欲しいと思います。

島根君の案も個人的にはかなり気に入ったし、実際に街に提案しても良いと思いました。

土井さんの案は家族の在り方、そしてコミュニティーに対する提案まで視野に入っていて素晴らしいが、だからこそ更に周りに繋がりを持たせると良くなりそう。

星野さんの案は着想もコンセプトも素晴らしかったので、模型に具体的な空間の提案が表せれば完璧だったと思います。

兼平君の案も、考え方はしっかりまとめられていたので、空間や形への変換が後もう一歩説得力を持てば大きく飛び出す力を感じました。

KD賞の佐々木君、とにかくコンセプトまでは他の人達も思いついたかもしれないけれど、よくぞここまで練りこんで形にしたものだと、感心させられました。

眞壁君の案は元の建物の面白さを凌ぐような変身ぶりに目を見張りました。平面の処理も上手いですが、立体となった時に立ち現れる空間が素晴らしい。

鳥居君の着眼点もとても良いと思いましたが、やはり目指すものがかたちになって魅せるところまでもっていって欲しかったです。

荒井さんの考えたこと、取り組む姿勢も素晴らしかった。自己PRも素晴らしかったですし、最後まで残っていたら特別賞の可能性が高かったと評判でした。


白子秀隆

白子秀隆建築設計事務所主宰

1998 東海大学工学部建築学科卒業
2000 東海大学大学院工学研究科建築学終了
2003 若松均建築設計事務所入所

非常勤講師として授業での設計を見ていた学生ということで、そこからどれだけの成長をして、卒業設計の提案につなげていくのかがとても楽しみでした。

今年の傾向として、リノベーションの提案が多くみられたことからも、既存の居場所にあたらしい「価値」を求める作品が多くあったと思います。明確なビルディングタイプや建築の「カタチ」を求めることが主題でないことから、単に一発のアイディアよりも、その案に至る過程やスタディーの量や問題意識の高さに裏付けされた「提案力」が、審査する上での判断基準になったかと思います。

最優秀賞の佐々木案「空間を食べ比べるように」は街区の中心(アン)に小さなグリットを埋め尽くした提案。均質なグリットの連続ではなく、ゆらぎのある大小さまざまな空間の組み合わせとスケールの操作が絶妙でした。模型を覗くほどに、魅力的な情景が次々と現れ、単なるアイディアだけでない、スタディーの蓄積が感じられ、それが結果的にこの提案の力強さに繋がったのではないかと思います。

優秀賞の星野案「建築のアナログ化」は、鎌倉の既存の建物の一部のエレメントを別の場所に「置換」して、街をリノベーションしていく手法が斬新でした。素材が入れ替わるだけでなく、もう少し大胆に空間の骨格が変わるくらいの置換をしても面白いのではないかと思いましたが、モノの記憶が循環していく仕組みはこれらのリノベーションの可能性を感じました。

奨励賞の前川案「西戸部の笠」は、ひな壇造成された街のコンテクストをうまく読み解き、棚田のような緩やかな段差と、軽快な屋根によって新たな街の価値を生み出している。兎に角、作られた建築のスケール感とカタチのバランスがすばらしい。このセンスに理論武装が加わることを期待しています。

同じく奨励賞の眞壁案「商転街」は、シャッター通りとなった商店街をもともとあった壁の位置を保存しながら再構築を試みた提案。また、アーケードを床に置換することでより断面的に面白い空間へと変化している。アーケードの今後のあり方に対して有効な提案であると感じました。

特別賞の吉村案「新宿ケモノマチ」は、新宿東口から歌舞伎町エリアで、新たな人の流れとアクティビティーを活性化する提案でした。地下と地上が分断した新宿に対して、このグランドライン付近の上下の減築の操作は、断面的な面白さと、街路の新しい風景を作り出していると思いました。

選外ではありましたが、岡田案の「クレバス建築」は、相模大野の伊勢丹にクレバス状のダイナミックなヴォイドを挿入することで、公園的要素をもった場所を生み出しています。地方の百貨店が次々と閉店する現状で、あえて何もない空地という公共的な居場所をつくることで、近隣の公園や商店街への活性化に繋がると思いました。

杉村案の「地平線の蘇生」は、建築とランドスケープの間の自然風景を作り出す提案が魅力的でした。旧通信施設であった広大な円形の敷地はポテンシャルが非常に高く、コンテクストをさらに分析して提案に組み込むことで、形に対する説得力を得られたと思います。

島根案の「太子堂まち保育」は、緻密なサーベイにより世田谷区太子堂の特徴を良く読み解いていると感じました。建築の空間としての魅力、形に対する根拠がもっと言及されていると良かったですが、既存のプログラムに対して増築や減築の細かな操作を丁寧に行うことによって、子供が「地域」と寄り添って生活する風景が浮かびました。

全体を通して、質疑応答での学生の必死のプレゼンが印象的でした。この熱意が卒業設計の一番の魅力であり、これからの建築に必要な要素だと思います。今後の活躍を期待しています。


伊藤州平

81A – 主宰

2003 東海大学工学部建築学科卒業
2005 東海大学大学院工学研究科建築学終了
2008 シーラカンスアンドアソシエイツ入所

卒業設計は、学生が自分で課題をつくって建築を考えるわけだが、その課題に対して個別的な回答に終始すると自作自演で完結的となるため、提案される空間や手法などに汎用性があって新しい建築の可能性につながるような作品を評価した。

 今年は学生の個人的な興味が際立った作品が多かったように感じた。それは作品に対して扱われる言葉にも表れていた。「少量多品種的空間(前川)」「地平線の蘇生(杉村)」「空模様を彩る(杉山)」「クレバス建築(岡田)」「劇場的風景(豊永)」「ケモノマチ(吉村)」「付築(星野)」「空間を食べ比べる(佐々木)」など。自分の言葉を用いて表現することは新たな建築のイメージを伝える上でとても大切なことである。

その中で、異彩を放っていた杉山案と星野案。

太陽光の反射をコントロールして、街の裏側となっている部分に動きのある光を落とし彩りを与えるという現象系の提案をした杉山案。時間や天候によって変化する光がその街の裏側に生まれる場とどのように連動するのかという部分をもっと具体的に詰められると、新しい空間の提案にまで至る可能性を感じた。

つづいて、減築した際に取り除かれるマテリアルを他の場所へ「付築」する、リノベーションの新たな手法を提案した星野案。見たことのあるものだけを用い再利用することで、新たに異なる領域をつくり使われ方に変化を与えるなど、街に対して未視感を与えていく提案が魅力的である。単にリノベーションによって新しい場や関係性をつくる以上に、プリコラージュ的に街の景観を再構成していく提案にまで発展する可能性を感じた。しかし、模型はブリーチしたかのように真っ白で作られていて、移動されるマテリアルが具象的に取り扱われることが面白いはずであることと反しその意図がよくわからなかった。

数ある作品の中で、前川案と佐々木案が秀逸で完成度が高かった。

丘の上にある六差路の周りに基壇を展開させてさまざまな場を提案した前川案。基壇をヒューマンスケールに近づけて、バリアフリーにおいて悪とされる壇・段を建築的にポジティブに取り扱い、既存の街並みにフィットさせている。しかし、基壇をその水平面としてだけで取り扱っているようにも感じられ、その段差部分を介して新たな場や領域のあり方を提案できるともっと建築的な話になるのではないかと感じた。そうすると屋根で認識される領域性とのズレが生じ、より奥行きのある提案になったように感じる。

最後に、活動する人間の数と空間の大きさが比例していくことに建築的な疑問を感じるという、センスの良いモチベーションからスタートした佐々木案。いくつかのスケールで作られた蜂の巣のような模型群はそれだけで興味深い。ただ、設定している機能領域の小ささから、狭っ苦しく鬱陶しさを受ける。機能領域を大きく取りながら空間を構成するスケールを小さくするというミスマッチさに提案の魅力を感じていたため、そこに矛盾を感じた。また、単位空間のスケールの小ささをヒューマンスケールということで根拠づけるだけでなく、小さいことやそのつながりが空間認識としてどういった新しさにつながるかを考えていくと、設計手法としての汎用性を持つのではないか。

卒業設計に関わらず、自分のつくり出した作品を信じきれるかどうかはとても大切である。そういった意味で、佐々木さんは自信に満ちていた。それが勝因だろう。「新宿ケモノマチ」の吉村さんや「24時間動きつづける建築」の荒井さんの粘り強いプレゼンテーションにも好感が持てた。最終的に賞から漏れてしまった作品も含め評価は僅差であったし、審査には運や偶発的な流れもある。大切なことは長い時間をかけて建築を考えて、それをまとめデザインしたことである。また、そういった経緯も含め後輩達にはもっとそれらに触れて欲しいと思うし、KDA審査会が今後より良い審査会となってほしい。


佐屋香織

ピークスタジオ共同主宰

2006 日本女子大学家政学部住居学科卒業
2008 日本女子大学家政学研究科住居学終了
2008 山本理顕設計工場入所

私は、建築家・設計者を生業にする将来を想像するときに、卒業設計で養われる力というものが手がかりの一つになると考えています。建築は単純ではないし、世の中の価値観は多様で、それでも何か自分なりの応えを見つけて向き合わなければならない。そこで私は、この審査をするにあたって2つの視点を持つことにしました。

1つは「コンセプト、課題をどのように設定」しているかです。借り物の問題意識ではなく、自分の中から生まれたモヤモヤしたものに、何か仮説めいた言葉を立て、建築で解決してやろうという意識があるかどうか。そして、それが独りよがりの仮説になっていないかどうか、そのバランスを見ました。

もう1つは「建築を構築していく力」が感じられるかどうかです。自分で調べたことや発見した内容や気づきを、建築にしていく過程はそんなに簡単ではないと思っています。ですが、空間にならずに図式的であったり、ルールや手法に溺れてしまっていたり、その場所性が感じられない作品では、建築の卒業設計としてはやっぱり物足りない。最終的に、建築として魅力的かどうかも大切だと思います。

そういう意味では、やはり、佐々木くんの「空間を食べ比べるように」は、自分なりの仮説もあり、土地の特性の理解や建築へと構築していく力、空間のつなぎあわせまでもが秀逸でした。そして、新しい公共空間への可能性も感じることができ、一方で全てを把握しきれない偏りが作品の中に残っていたことも良かったのだと思います。

眞壁くんの「商転街」は、対象となる既存の商店街を活かした解像度の高い作品で、視線の抜けや人の動きに着目した建築スタディの蓄積を感じられました。アーケードの構造体を利用した立体化も良かったです。

星野さんの「建築のアナログ化」は、まずタイトルが良いと思います。そして、アナログ化の定義を明確にしている点、プレゼンテーションを手書きにしている点などの統一された世界観が良かったです。あえて言うのであれば、建築の空間的魅力が少し足らなかった。

吉村くんの「新宿ケモノマチ」は、人々の軌跡の建築化という視点が興味深く、地下との連動や街区を超えての展開をも想像させる作品でした。ただ、建築が人の軌跡に与える影響や人の軌跡が作り出す建築をもう少し具現化でき、この建築を作ったことで変わる風景を魅力的に示せると良かったのだと思います。

杉村くんの「地平線の蘇生」は、都市の建築物によって失われた地平線を取り戻すというストーリーと魅力的な直径1kmの敷地を見つけてきた、彼の嗅覚に感心していました。ただ、敷地全体を建築として捉え直したときの、周辺環境との関係性や中心を走る道路による分断への解答も気になりましたし、計画する建築物の扱いが着地してないように見受けられました。

豊永くんの「都市の劇場的風景」は、自身が感動する風景に気づき、合理的な価値観では評価されない視点でつくる魅力的な計画でした。渋谷のスクランブル交差点の上に浮かぶすり鉢状の動線、もう少し広い視野でも考えられれば、より厚みが増したのかもしれません。

事前に梗概を読んで、一番気になっていたのは、前川くんの「西戸部の笠」でした。丘陵地帯の空家問題や公共サービスの普及不足に対し、交通システムやコミュニティ形成の基盤となるソフト、土木的な地形の形成、建築と屋根の構成までバランスよく解答されていて、一見するとマイナスと捉えられる諸条件にポジティブな反応をしている点も好感が持てました。特徴的な六差路を計画地としているセンスも良かったです。

全体的に優秀な作品が多く、選ぶのに苦労しました。全ての作品にコメントできませんでしたが、充実した楽しい時間を過ごさせていただきました。卒業設計で得た経験をこれからも生かしていってほしいです。


増田果子

芝浦工業大学大学院所属

KDA2018 奨励賞

2019 東海大学工学部建築学科卒業
2019 芝浦工業大学大学院所属

今回の卒業設計は全体的に「建築」の枠が広くなり、街づくりとまではいかないが、より都市に近づいた規模の作品が多く見られたのが印象的でした。規模や範囲が大きくなっても しっかりと設計こなしていたことにとても感銘しました。

去年審査される側だったこの審査会に今回は審査する側として参加したためとても刺激的で、来年修士設計をする身としては参考になることばかりでとても良い経験となりました。

建築は次第に均質になっていく中で、そのような建築群に埋もれてしまっている都市の歴史や地形、構成物、人、文化などといった潜在的な個性をいかにあぶり出し、それをどう活用するかに留まらず、建築空間の豊かさの増幅にまで至ることができている作品に魅力を感じ、評価の基準としました。

星野さんの案は、ただ作り変えるリノベーションの概念から逸脱し、痕跡を転用することによって付加価値を見いだせている作品だと思います。小間切れに更新が繰り返される鎌倉において、様々な時間や場所や人為によって生じた経年変化や痕跡が付加されたマテリアルが場所を変え、街に残存し続けることができるこの操作によって、持続的に更新が繰り返された街の姿がどうなるのか、と想像を膨らますことができました。

眞壁くんの案は純粋に既存の商店街の形状からの空間の変容に驚かされました。内外の境界を曖昧にすることで、閉鎖的であるがゆえに商店街の孤立感をより強調させてしまって いたコの字型街路の魅力を再構築させることができていると思いました。テクスチャによって内外の混在が見られる内部空間の構成もそれを後押ししていると思います。

前川くんの案は街の中から、基壇という小さな要素に着眼した目の付け所に加え、基壇によって生じた空間ごとのレベルのずれや、軽やかな屋根が勾配や重なりを持つことによって多彩な空間が巧みに創出されていて惹かれるものがありました。

杉村くんの案は地平線のような景色を形成するというコンセプトをうまくこの特異な敷地を利用して解けていると思いました。遠景的コンセプトに視野を狭めずに、丘陵の設計にまで至れていたらもっと良い環境となったと思います。

吉村くんの案は何より新宿のような都心において確立されてしまっている街区という概念を超えて、新宿をワンフィールドに捉えた斬新な発想はとても興味深かったです。

杉山くんの案はオフィスの裏側という陰の環境でありながらも、埋もれてしまった渋谷川沿い空間の魅力を他作品と比べて少ない操作で引き出せていました。それがしっかり伝わる模型表現も良かったです。

佐々木くんの食べ比べを設計に取り込む観点は興味深かったです。アイレベルでみた時に奥の空間を切り取るフレームとなる開口が連続し、空間の幾多もの奥性に魅力を感じました。

兼平くんの案はここまで閉鎖的にすることが果たして今日の渋谷的サブカルチャーの姿であるかどうかは釈然としないところもありますが、渋谷の都市構造をあぶり出し、そのまま 当てはめるのではなく再解釈したことによって、彼なりの渋谷の姿を空間化することができていたと思います。


杉山慶太 「空模様を彩る」


岡田優希 「クレバス建築」


杉村遼典 「地平線の蘇生」


豊永勇次 「都市の劇場的風景」


大和田絵梨 「祭をデザインする」