高橋誠「世田谷のトラスト運動と成城界隈の関連施設」
建築かふぇ2015春
- 講師
- 一般財団法人 世田谷トラストまちづくり 高橋誠氏
- 開催日
- 2015年5月23日
- 13:00〜
- 成城学園前 旧猪俣邸
- 14:40〜
- 成城の町並み散策 成城の歴史、近代住宅、市民緑地 成城三丁目緑地
1985年東海大学建築学科卒業の高橋誠さんに成城学園の街をご案内頂きました。高橋誠さんは稲葉研究室卒。今回は稲葉先生と吉田先生も駆けつけて下さり、賑やかなまち歩きとなりました。小田急線成城学園前駅から徒歩7分、吉田五十八設計の猪俣邸に集合。まずは高橋さんから”トラスト運動”についてのお話です。
19世紀末のイギリス、産業革命によって莫大な富を蓄える一方、無秩序な開発によって失われつつある景勝を守ろうと提唱されたのが「ナショナル・トラスト運動」でした。保護対象となる土地等を所有者(=委託者)からナショナルトラストが買い取り所有し一般に公開するという100年以上も続く運動の結果、今ではイギリス国内で2700㎢の土地、900kmの海岸線、300カ所以上の歴史的建造物や庭園をナショナルトラストが所有しているそうです。
イギリスで始まったトラスト運動は世界各地に広がり、日本では1964年に作家の大佛次郎ら鎌倉市民が中心となって鶴岡八幡宮の裏山の開発反対運動をきっかけに最初のナショナル・トラスト運動が始まりました。この一連の運動が契機となって1966年には古都保存法が制定されました。現在では日本国内に約50ものナショナル・トラスト運動が展開されており、そのひとつが高橋さんの所属している「せたがやトラスト協会」です。
1980年代後半、社会が好景気に沸き急速に都市化が進む中で世田谷の自然と歴史的文化遺産を守り後世に引き継いで行くことを目的に1989年、せたがやトラスト協会が発足しました。稲葉先生は設立時から関わっておられ、高橋さんは平成9年から協会で活動されているという事です。せたがやトラスト協会では、今日ご案内頂いた「旧猪俣邸」をはじめとする歴史的建造物を調査、保全、公開するだけでなく緑地の保全管理、ボランティアの育成、トラスト運動の普及と啓発などの活動も展開しているそうです。
旧猪俣邸住宅
- 竣工
- 昭和42年 (1967年)
- 敷地面積
- 1861.7㎡
- 延床面積
- 371㎡
- 構造
- 木造平屋一部RC造
- 設計
- 吉田五十八
- 施工
- 水沢工務店 (茶室施工:丸富工務店)
吉田五十八73歳の作品。武家屋敷風の趣のある数寄屋造り。100坪の建物の屋根の高さを抑えるため、2カ所の中庭を設けて屋根勾配を取っている。庭に面する障子、ガラス戸、網戸、鎧戸を壁の中に引込み、梁と柱を額縁に見立てて庭を絵として見せるのは吉田五十八晩年の手法。当時30代の建築家だった稲葉・吉田先生によると吉田五十八の数寄屋は近代建築に反するとして批判もされたが、腕のいい職人による施工とセットで資産家の住宅を次々と残しているとか。猪俣邸は長男、猪俣靖氏によって平成8年に寄贈されていますが、靖氏と吉田先生は高校時代の友人だったそうです!正方形でない部屋の縦横比にあわせて菱形に張られたフローリング、建築化された照明器具、細いドア枠、落し込みの障子、長押の面取りなどに参加者の皆さんは興味津々。寸法を当ったり、スケッチしたりしながら存分に吉田五十八作品を堪能しました。
猪俣邸を出て強い日差しの中、成城学園の住宅街を歩きます。成城学園は大正半ばまで畑と雑木林の広がる村だったそうです。大正14年、現在の新宿にあった成城学校の移転計画とともに学園都市の建設が始まります。学園の建設資金を得るために学園のまわりの土地が宅地として売り出され、最小100坪の敷地制限、建ぺい率25%、すみ切り、生け垣、大谷石の塀等の申し合わせが当時から行われていました。現在でも昭和初期の洋館や当時の外構が多く残されていて、高橋さんに案内して頂きながら進みます。
成城三丁目緑地はクヌギやコナラの落葉樹が広がる約2haの緑地で、多摩川が削って形成された国分寺崖線上にあります。この緑地も都市の中の貴重な自然空間としてせたがやトラスト協会が保全活動をしており、近くの小学校では授業の一環として管理を体験するなどしているそうです。
最後は成城学園前駅に近い今井兼次1955年の作品、カトリック成城教会へ。ここで今日のツアーは解散です。皆さん、少々暑い日でしたがお疲れさまでした。
稲葉先生、吉田先生、ありがとうございました。そして講師の高橋さん、どうもありがとうございました。高橋さんには立派なレジメまで作って頂き、感激しました。成城学園以外の近代建築も、またぜひご案内頂きたいと思います。