KDA2014
審査結果と講評
2015年1月31日、KDA 東海大学建築会卒業設計賞 審査会が開催されました。東海大学OBの建築家4人が公開審査によって学科の審査とは別に卒業設計を審査します。
今年の審査員は去年に引き続き、下記4名の方々です。
- 審査員長
- 岸本和彦 (acaa)
- 審査員
- 井上玄 (GEN INOUE) 白子秀隆 (白子秀隆建築設計事務所) 竹内宏俊 (O.F.D.A.associates)
今年もまず始めに審査員が各々会場内を廻り、作品前で待つ学生ひとりひとりと質疑応答を行って1次審査への通過作品を吟味しました。1次審査では審査員がそれぞれ5票を持ち、10作品を選出します。2次審査では選ばれた10名がまず審査員の前で5分間という持ち時間の中で作品をアピールし、その後審査員は学生を交えて議論を重ねた後、それぞれ金1票、銀2票を投票し、更に議論が重ねられた結果、下記3名が選ばれました。
- 最優秀賞
- 中津川毬江 日常は壁一重 ~街と家族が寄り添う少年院~
- 優秀賞
- 伊藤信舞 意識しない建築 ~線を増やしカタチを消す事で、身体との距離を縮めた青山美術図書館~ 広瀬貴也 世紀の遺言 ~100年後の未来の為に真実を伝承する資料館~
講評
審査員長 岸本和彦
本コンクールの審査委員長を3年つとめさせていただきました。改めてこの審査方式について説明すると、遡ること10年以上も前、日本建築家協会神奈川地域会の主宰する大学卒業設計コンクールで改良を重ねながら採用されてきた方式です。現在では同じく日本建築家協会本部が主催する全国大会でも同じ方式が採用されています。評価出来る点としては1次審査で出展者と審査委員が会話を通じてコミュニケーションを交わせるところだと思います。時間の制限があり十分ではなかったかもしれませんが、一方的なプレゼンやパネルだけでは読み切れない主旨や情熱を、出展者は順番に廻ってくる審査委員にそれぞれ個別にアピール出来るというメリットがあります。
さて、作品の講評ですが最優秀賞は中津川さんでした。全審査委員の意見の一致もあり賞決めにはほとんど迷いの余地がありませんでした。グリットで分割された領域を木質の生活空間が繋ぐ構成は、模型を見るだけで空間操作の巧みさが際立っており、ゾーニング計画や全体を貫くテーマ、そして表現されている生活風景にリアリティーがあると思いました。ただ、問題点ももちろんあります。なぜあそこまで規則的なグリットが必要であったのか、全体を流れる小川やそれによって潤される田んぼや、計画的につくり出した高低差にはいまだ違和感とぎこちなさがありました。優秀な作品だけに惜しまれます。
優秀賞の1点目は伊藤信舞さんです。彼女らしいダイナミックな構造体を表現した透明感溢れる模型とパネル表現が何よりも目を引きつけました。まずチャレンジングなことをやろうとしていることは一目瞭然で、その理論を引きつけるためのダイヤグラムもたくさん表現されていますので、賞も当然かと思われます。一方でやはり不満も多く残ります。私としては空間を分節するはずのランダムな柱が実はほとんどその役割を果たせていないことに気が付きました。特に宙に浮くようなスラブの領域は一室空間であり、柱というよりは浮いたスラブが一つの強い領域を表現している様にも見えてしまったことが残念です。
優秀賞の2点目は広瀬貴也さんでした。彼の作品もまずはその巨大な模型が目を引き、空間を導き出すための壁のパターンがその思考過程の緻密さを予感させました。何よりも残念であったことは、そのパターン模型の配列がきちんと体系化されて具体的な計画案へと反映されているという理路を見つけることがとても困難であったことです。それではせっかく大量につくったパターン模型が単なる飾りに見えてしまいます。しかしながら、理由無き空間への憧れとそこへ近づこうとする情熱は、全作品の中で1番であったかもしれません。
他の作品で気になったものを幾つか取り上げたいと思います。一つは若月優希さんです。彼女の実力からすれば完全に不完全燃焼であったことはすぐに分かりました。サッと見終えて2回目に下から模型を見上げたら、ダメだなと思ったランダムに浮かぶ屋根の配置が、確かに彼女の言っているとおり、明らかな領域をつくり出していると思いました。ありそうで無い風景。要はその空間だけが魅力で、スラブを支える柱やその林立した水平目線の風景、さらに一部ガラスで囲んだ屋内空間が明らかに手抜きなのでいけないのです。残念でした。
あと1作品、田澤梨奈さん。実は僕はこの作品がとても好きで賞に入ってほしかったのですが、残念ながら叶いませんでした。街を楽器に見立てて空き地に音楽を挿入していくという発想はとても魅力的です。その造形も。いろいろと詳しく聞くまで全貌はつかめなかったのですが、そこに集まる年齢層によって幾つかにゾーニングを分け、いろんな音、それは楽器だったりおしゃべりだったり、を街の隙間に奏でるとういとても魅力的なものです。
残念だったことは、まるでラッパか胃袋のような有機的造形と音響効果の関連性を最後まで聞き出すことが出来なかったことと、模型表現では屋根が無かったこと。この2点につきます。
審査員 井上玄
卒業設計の評価軸
私の卒業設計の評価軸は、テーマ設定、起承転結の一貫性、提出物(プレゼンと模型)の完成度など幾つかある中で、テーマ設定を重視している。それは課題を与えられ、それに応える三年生までの設計課題とは異なり、何に取り組むかから考えるのが卒業設計の醍醐味であると考えるからだ。卒業設計のテーマを考えることは、建築における自分の興味、関心を探すことであり、その自分らしさの発見は将来の社会に対する自己表現力の源になると信じている。また、そのテーマ設定も、特定の用途や地域性に特化せず、原理的な建築構成や新しいビルディングタイプの提案など、普遍性や汎用性の高いテーマ設定が望ましいと考えている。
そんな視点で私が評価したのは、伊藤さんの「意識しない建築」〜線を増やしカタチを消すことで、身体との距離を縮めた青山美術図書館〜である。建築が必然的にもつファサードや境界の在り方など、汎用性の高いテーマ設定と提案に共感した。ある程度規模が大きい建築の威圧的ともいえるファサード(面)を、身体スケールに近づけるために細分化し、線的な細い面で再構築しているところが面白い。一見、柱がランダムに並ぶ“ありがちな卒業設計”に見えるがそうではない。その違いは、線的な面の配列のプロセスから読み取れる。外部と内部、諸室間のプライバシーを守るなど、ファサードや面が担っている機能を無視すること無く、もともとファサードのある位置から内部中央に向かって、真正面から見ると一枚の壁と同じように視線を遮るが、角度をもって斜めから見ると抜けがあり壁の存在感を意識させないように配列しているからだ。また、テーマ設定、プログラム、美術図書館という公共施設の用途設定、表面的なファサードデザインが立ち並ぶ表参道・青山という敷地設定に至るまで一貫性が保たれていることも評価したい。
中津川さんの「日常は壁一重」〜街と家族が寄り添う少年院〜は、非常に特殊な用途・ビルディングタイプに対してのテーマ設定であり、提案内容もその特殊性を超えず、汎用性という視点で強度が不足していることが気になった。社会的な問題意識からスタートし現状の少年院の調査などを経て、最終的なアウトプットに至るまで、大変完成度の高い作品であり、少年院と社会を隔てる壁や境界の在り方や、計画敷地に街のグリットを挿入し区画しつつ、わざとそれを跨ぐかたちでヴォリューム(機能)を置く考え方は、普遍性へ展開できる可能性があったので惜しく思う。
審査員 白子秀隆
年々、卒業設計の提出数が減少しているのは残念ですが、その分、意欲的な作品が数多くあり、全体のレベルは高いと思いました。
同時に、今年は「提案の強度」の差が大きかったように感じました。ワンアイディアの手法で安易に全体を構築したり、サーベイが一般的な情報の羅列で、独自の視点や問題提起がされていなかったり、卒業設計としては少々軽い感じのものも見受けられました。
「提案の強度」は自分が本当にやりたい事がやりきれているかどうかだと思います。多少、恣意的であっても、矛盾があったとしても、その独自の思考の過程をしっかり表現することが、あらためて大事だと思いました。
「伊藤案」は、微小なエレメントを増幅させることで、建築が物理的に備えてしまう、壁や床、柱、形態や領域を“意識しない建築”としている。それは都市の中での用途や機能によらない、自由で曖昧な公共性の提案に繋がると思う。途中のスタディーモデルに見られるような、一連のプロセスに提案の強度を感じました。
「広瀬案」は、巣鴨プリズンの平面の軌跡が作り出す地下構成が魅力的。結果的に断面模型が解りづらかった。スリットから導かれる光の効果、二重螺旋で導かれるシークエンスをもっと表現できると良いと思いました。
「中津川案」は、周辺住宅と少年院の塀のスケールとの差異を、安易に壁を取り払わず、壁の高さ、素材、接する地盤面の操作により、少年院の新しい関係性を生み出している。完成度が高く、抜群のバランス感があるが、空間の面白みにやや欠ける気がしました。
「辻川案」は、不完全な立方体が作りだす、均質のようで均質でない空間モデルが面白かった。全体的に壁の量が多かった。もっと領域が拡散するように、4mのグリッドが消失するくらい「ほつれ」ても良かったかと思います。
「大沼案」は、地盤面と屋根のデザインが、既存の町の雰囲気と馴染み、微妙な内外の居場所を提案している。とにかく模型が残念。繊細な屋根の表現であればもっと評価は高かったと思います。
「小川案」は、視線を誘導させる壁の配置が良かった。地下を切り離してしまったのは勿体ない。光量や反射、解像度など写真に関連するような現象についても取り込めると面白い提案になると思いました。
「田澤案」は、賑わいや、振動や騒音、静かな場所・・など「音」を手がかかりに、人が集まる場所をつくり出す提案に可能性を感じた。が、その表現と過程があまりに少なかったと思います。
「若月案」は、富士山との関係、遠景としてのヴォリュームにこだわりすぎたのでは。
プラットホームの無い、線路を自由に横断できるフリーマーケットのような人と人が交流する雰囲気が共感を覚えました。
審査員 竹内宏俊
今年の審査会はタイトルを見た時に、これまでいくつかの児童養護施設の設計に携わってきた経験から、少年院を扱った中津川案と児童養護施設を扱った内田案が個人的に気になりました。
この種の施設は、その背景にある社会的問題の深刻さから、他者が施設の中には容易に入ることが出来ないブラックボックス化した施設です。その為、建築的な資料が非常に少なく、お二人共調査にはかなり苦労されたと思います。一方で、社会との乖離が著しい施設生活や施設単体では根本的な問題解決にならないとの反省から、地域社会との関係性をどのように持たせるかということが、重要のテーマとなりつつあります。
その問題に対し、学生が建築的にどのように答えるのかということに興味があったのですが、内田案は、児童養護協会が掲げている目標をそのままカタチにした感が否めなかったのが残念でした。
最優秀賞の中津川案は、グリット状に塀を配置するというシンプルなアイデアながら、そのことで区画単位のセキュリティコントロールが可能となり、施設の中に点在して設けられた家庭菜園や通路などを時間単位で周辺住民に開放する提案でした。また入所者が家族共に社会復帰を目指す居住スペースを塀に貫入し、施設内の開放された場に近接することで社会との接点を取り込もうとするなど、全体としてプログラムと建築の完成度が非常に高かったと思います。
優秀賞の伊藤案は、ランダムに立つ繊細な柱による構成が、柱というよりも竹林のように感じられる空間で、建築を意識させないといった設計の意図もわかりやすい案だと思います。スタディー案の中にも面白い案が見られ、自分の意図を建築化しようと取組む姿勢に好感が持てました。
同じく優秀賞の広瀬案は、巣鴨プリンズンの平面をクレパスのようなスリットに置き換え、そこから地下空間へと取り込まれる光が劇的だろうと思われる案で、そのことが歴史的な背景やプログラムともうまく合致していたと思います。表現として、スリットの存在がわかりにくかったのでその点をもっと前面に押し出すとより良かっと思います。
以上、審査員の講評でした。審査員の皆さん、お疲れさまでした。どうもありがとうございました!そして受賞者の中津川さん、伊藤さん、広瀬さんおめでとうございます。