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REPORT

竹内宏俊 

Hirotoshi TAKEUCHI 第38期生(1963年卒業)

Posted on 2014.6.5 Last Update 2019.12.3 Author Organizer Tag 同窓生紹介

竹内宏俊1998年に学部卒業後、大学院の博士課程に進学し、岩岡竜夫教授の指導のもとで、1999~2006年まで、研究と設計に従事しました。博士課程終了後は、2008年から現在の勤務先である坂牛卓一級建築士事務所の管理建築士として、実務設計の現場に携わっています。また、その間に東京家政学院大学や東海大学で非常勤講師として、教育にも関わっています。

T-2
「T-2」間口3.6m、全長23.6mの細長いプロポーションの住宅。村落のスケールに配慮した外形ヴォリューム

研究においては、「建築におけるスケール」をテーマに、建築学や建築論においてスケールという用語が、測定の道具、空間の寸法、寸法比などといった一般的意味を超えて、建築におけるスケールは、機能的、構造的、あるいは視覚的要因などから生じる、規模の差異がもたらすプロポーションの歪み、すなわちアロメトリーとして、建築意匠の内に現れるものであるという考えのもと、主として現代日本の住宅作品を対象に意匠表現に関する研究を行っていました。

それは、建築の様々な部位に内在する寸法から、設計者の意図を読み解くことを試みるものでした。この研究で得られた成果は、その後の実務設計においても役立っていますが、何より研究中に様々な文献を読み漁ったことが自分の財産だと感じています。

それらの文献の中でも特に、フィリップ・ブドンの『建築空間―尺度について 』(SD選書 130)、クロード・レヴィ・ストロースの『野生の思考』(みすず書房)、K. シュミットニールセンの『スケーリング 動物設計論―動物の大きさは何で決まるのか』(コロナ社)の3冊は、私のバイブルとも言うべきもので、機会があったら読んでいただきたい書籍です。

設計では、岩岡教授のもとで住宅1件、ファサード改修1件を担当し、坂牛事務所では、竣工したものでは住宅2件、児童養護施設2件、事務所1件、工場1件と様々な用途・規模の設計を担当してきました。その他、個人活動として、住宅1件を研究室の同期で友人の白子秀隆氏と共同設計しています。

児童養護施設「アリスとテレス」
児童養護施設「アリスとテレス」 アリス棟(女子棟)、テレス棟(男子棟)、ソクラテス棟(幼児棟)、プラトン(事務棟)の4棟で構成された児童養護施設。住戸棟は6人制の小規模グループケアx2を前提とした三ツ矢型の平面をしている。

こうした中でも特に、児童養護施設の設計を担当出来たことは、私にとって大変貴重な経験でした。児童養護施設は、児童福祉法に定められた児童福祉施設の一つで、予期できない災害や事故、親の離婚や病気、また不適切な養育を受けているなどさまざまな事情により、家族による養育が困難な2~18歳の子どもたちが家庭に替わる子どもたちの家として生活するところです※1

しかし、現実には入所理由の6割近くが親などの虐待によるものとなっています※2。児童虐待は幼い子供たちの相次ぐ虐待による死亡事件としてニュースなどでも大きく取り上げられ、一般にも大きな社会問題として認識されつつありますが、その一方で、そうした子供たちをケアする言わば子供たちにとっての最後の砦である児童養護施設についてはあまり知られていません。そうした状況は建築においても同様で、実際に施設を設計するにあたり、建築的な資料や研究が殆ど無い状況でした。

また、児童養護施設のあり方も、かつての大舎制(相部屋形式で食事は大食堂で食べる寮のようなタイプ)があまりにも一般家庭の生活からかけ離れているとの反省から、小規模グループケア(職員を中心に6人程度の児童で擬似家族を形成し、一般家庭に近い形で生活するタイプ)に移行しつつあり※3、建築的には住宅のようでありながら、住宅とは異なる新たな形式が求められていることを実感しています。

児童養護施設に関する建築的な資料や研究が殆ど無い要因には、児童養護が抱える社会的問題の深刻さから、他者が施設の中には容易に入れず調査が難しいという側面があります。しかし、児童養護施設に対する社会的ニーズはよりいっそう高まっているのも現状です。

特に施設の小規模グループ化は、厚生省の指針も有り、急速に進んでいますが、既存の住宅やアパート、マンション等を賃貸で借り受け、そのまま入居している事例も多く、そうした住環境が子供たちにとって適切であるとは言いがたい状況です。そうした状況を改善するためにも、施設の設計に際してこれまでに関わってきた児童養護施設の関係者・関係機関の協力を仰ぎながら、児童養護施設の建築的なあり方を調査、研究したいと考えています。

  1. 「児童福祉法41条」参照
  2. 厚生労働省「児童養護施設入所児童等調査(平成19年度)」によると、2008年2月1日現在、入所児童の53.4%が何らかの虐待を受けているとの調査報告がある
  3. 厚生労働省「児童養護施設運営指針」参照

竹内宏俊(たけうち ひろとし)

1975
群馬県生まれ
1998
東海大学工学部建築学科卒業
2006
東海大学大学院博士課程修了 (工学博士)
2008
坂牛卓一級建築士事務所/O.F.D.A.associates 現在に至る
2003〜2007
東京家政学院大学非常勤講師
2007~2010
東海大学(代々木校舎)非常勤講師
2012
東海大学(湘南校舎)非常勤講師