田中俊六「再生可能エネルギーは日本を救えるか!」
建築かふぇ2012秋
- 開催日
- 2012年11月3日
- 講師
- 田中俊六先生
- 会場
- 東海大学湘南校舎ネクサスホール
12回を迎える東海大学建築会主催の“建築かふぇ”。会場には多くの卒業生と共に原先生も駆けつけて下さり、建築会へのメッセージを頂きました。
今回は本校の名誉教授で学長も勤められました田中俊六先生による講演です。「再生可能エネルギーは日本を救えるか!」と題し、東日本大地震以降のエネルギー事情、太陽熱利用から光発電、風力発電など、日本の再生可能エネルギーの本格的実用化への課題を大いに語って頂きました。以下、田中先生の講演から抜粋、編集してお伝えします。
原子力事故以降特に話題になっているエネルギー問題は色々な意味で様変わりしてきています。周辺国の発展の中で日本が判断を間違えないことが大切です。再生可能エネルギーは日本を救えるかというお話をさせて頂きます。
原子力は安全なのか、太陽エネルギーで補えるのではないか、などの議論は以前からなされていますが、色々言っている間にもCO2は発生し続けて地球が暑くなっているというのが現状です。進むヒートアイランド現象対策で一時屋上緑化が勧められたが、これは気温の低下に対して湿度の上昇を生じる。実際にはメンテナンスも大変で、今は殆ど聞かなくなりました。屋上緑化で気温を下げるよりも冷却塔で冷房した方が計算上は都市の気温が下がります。春や秋など不要な季節には動かさなくていいのでエアコンの効率も上がります。それに対して今は屋上に太陽電池を取付けることが勧められている。しかし太陽電池は太陽熱を95%程度吸収するが電気になるのは15%なので残りの80%は実際には都市を暑くしているというのが現状です。
“Renewable Energy”は”再生可能エネルギー”と一般的に訳されていますが”able”は”可能”と言うほど強い意味ではない。日本語で”可能”と言うと人間が可能であるという意味を感じてしまうが、そうではなく太陽が自然に持っていることで更新されるという意味、従って”更新されるエネルギー”という意味でただ”再生エネルギー”と訳した方がいいと思います。また”再生”とは”リサイクル”の意味ではなく”リバース”つまり再び生きてくる、生まれる、という理解が正しいのです。さて、この”再生エネルギー”に非常に期待を持っている訳ですが、日本では難解な問題。穏やかで温暖な気候、量質とも少ない資源、経済規模の割に国土が狭いという日本においては、再生エネルギーは非常に高コストとなり、供給不足となって経済が萎縮してしまう恐れがあるのです。
この再生エネルギーをめぐる今の日本の状況を見てみると、まずマスコミが日本の地理や気候を無視して海外での成功例を手放しで報道している。裏付け取材をせずにぱっと出しちゃう。これが再生エネルギーの過大評価になっているのではないでしょうか。また大学では基礎研究が疎かになり、外部資金の導入がある応用研究が評価される傾向にあり、研究機関でも個人の独創的研究を重視する傾向がある。大企業は大企業で副業的に色々な分野に参入するが腰が座っていない。つまり非常に内向きな志向にある。技術優位を日本は過信していると言えます。
エネルギーの問題を理解する時に重要なのはエネルギーの流れがどうなっているかということです。宇宙から地球、地球から宇宙へのエネルギーの流れ。太陽エネルギーは一部は太陽光発電で利用されるが大部分は地上で大気温度、あるいは海の温度になる。そしてこれがそのまま宇宙に逃げて行きます。地上では人間は化石燃料を燃やして電気を取り出し一部コージェネで廃熱を取って使う。全く使えない排熱は人工排熱として地球の気温を上げ、輻射熱として大気に放散される。こういうバランスで成り立っているわけです。また、エネルギーの中のエクセルギーとエントロピーの関係。高温であればエネルギーとエクセルギーはあまり変わりません。地上あるいは海水温度でエクセルギーはゼロになり、逆にマイナスの熱になるとエクセルギーはプラスになる。それに対してエントロピーは高温だと小さくて温度が下がって行くと無限に拡散してしまう。更にエネルギーには上から下に落ちる位置エネルギーや逆に上に汲み上げられる光合成、炭素循環などがある。こういうふうにエネルギー、エクセルギー、エントロピーは流れているわけです。
太陽光発電
太陽熱を利用する再生エネルギーに2つの種類があります。ひとつは太陽熱を運動エネルギーに変換する古典熱力学。太陽熱給湯や風力発電などです。これは新規材料や巨大化技術の開発が目玉になるため進歩にはある程度限界があります。一方もうひとつが量子熱力学。光電変換による光光合成やバイオマス発電は35年前からありましたがだんだん採算が合うようになってきた。これは今後の発展が期待できます。ソーラーハウスの場合、太陽エネルギーはグローバルに入ってきているが全天日射量は地域によって違う。つまりグローバルな技術で集熱のいい集熱器を作り、ローカルな応用システムで運用していかなければならない。つまりグローカルな技術が必要になるのです。
風力発電
太陽光発電は今大変人気があるが省エネ量は風力発電の方が大きい。日本では強い風を求めて山の上に建てられてきたが乱流で壊れたり騒音の発生で問題になってきた。ヨーロッパでは風が比較的整流である平地に作られています。洋上風力発電で今いちばん成功しているのが偏西風が通年吹く北海です。日本は季節風なので冬はある程度風があるが、本当に発電してほしい夏に太平洋高気圧のせいで風が期待できない。今の所なかなかうまく行っていないが、海では温度差発電とか潮流発電という考えもあり今後の目標になっています。
水力発電
政府は中小水力を増やそうとしているが管理問題やダム建設による環境破壊の問題がある。むしろ500kw以下の小水力発電が注目されています。日本は急流です。急流なので水力発電にはいいんですね。地形や与えられた条件を無視せずに検討しないといけません。
太陽熱冷暖房給湯システム
最近スマートシティやゼロエナジービルなどでも耳にする、色々な要素を取り入れて給湯、冷暖房を行うシステムです。我々は特にヒートポンプを上手く使うことを推奨しています。断熱、遮熱、ヒートポンプ、太陽電池は非常にいい組み合わせです。しかし一方、太陽熱冷暖房と太陽光発電によるエアコンはどちらがいいのか。太陽熱冷暖房は集熱器を利用して蓄熱で熱を下げて吸収冷凍、吸着冷凍を使って空調する。一方太陽光発電は太陽電池を使って電気を作って余った時には系統に渡して使う時は電動のエアコンを使う。同じ2.5kwの電力を取ろうとすると太陽電池は中間期を含めて8㎡でいい。全部この電気を後で返してもらえばいいし、余った時には売ればいい訳です。しかし太陽熱の場合は余ったら夏の時期は捨ててしまうしかない。中間期は使えない訳です。集熱効果は非常に高いのに効率が非常に悪いというのが太陽熱冷暖房についての“不都合な事実”です。
原子力発電を捨てろという人もいるし捨てられないという人もいますが現在の日本のエネルギー事情を見た場合になかなか原子力を捨てられないというのが現状です。原子力は危険ですから、なくて済むのなら使いたくない。しかし再生エネルギーはそう簡単には増えない。しかも石油や天然ガスをたくさん使って3兆円も4兆円も電気代が余計にかかってくると、日本の産業が潰れてしまう。このような状態で原発を認めるかどうか、これはこれから非常に大きな課題になってきます。原理原則からエネルギーはどう流れているのか、その中でどのような対処方法があるのかを充分考えてみて下さい。いずれにせよ、やはり重要になるのは省エネです。産業が伸びなければ日本は沈没してしまうので産業用の省エネはなかなか効いてきません。しかし特に建築と民政では効きます。エネルギーのエントロピーを減らす省エネ。これが非常に重要です。
田中俊六
- 1938
- 三重県生まれ
- 1961
- 早稲田大学理工学部建築学科卒業
- 1966
- 早稲田大学大学院工学研究科博士課程単位取得 東海大学工学部建築学科専任講師
- 1978
- 工学博士
- 1979
- 東海大学工学部建築学科教授
- 1998
- 東海大学学長
- 2000
- 社団法人空気調和衛生工学会会長
- 現在
- 東海大学名誉教授
- 著書
- 太陽熱冷暖房システム (オーム社 1977/05) 省エネルギーシステム概論 21世紀日本のエネルギーシステムの選択 (オーム社 2003/12) 最新建築環境工学 改訂3版 (井上書院 2006/03)