大学は地域デザインを支える知の拠点となり得るか 後藤 純 准教授 講演「地域デザインの実践と展望」開催報告
2026年6月27日、東海大学建築会では、後藤純准教授をお招きし、「地域デザインの実践と展望」と題した講演を開催しました。

本講演では、高齢社会、震災復興、地域デザイン教育、公共性と事業性、そして都市と地方の空間構造の違いに至るまで、幅広い視点から地域デザインの現在地が語られました。そこから見えてきたのは、地域デザインとは建築や都市計画の周辺にある補助的なテーマではなく、人々の暮らしを支える環境を、どのように読み解き、組み立て直していくのかを考える実践的な領域であるということでした。
講演の冒頭では、高齢社会における地域のあり方が取り上げられました。人生100年時代において、地域に求められるのは、単に住宅や福祉施設を整備することだけではありません。高齢者が夫婦で、あるいは一人で暮らし続けるとき、地域はどのような距離感で人を支えることができるのか。人はつながりを必要とする一方で、過度に管理された関係や共同体に縛られることは望みません。こうした曖昧で扱いにくい生活感覚を、建築や都市はどのように受け止めることができるのか。地域デザインの課題は、そのような日常の矛盾の中にあります。
東日本大震災後の復興に関する事例では、この問題がより具体的に示されました。復興においては、住宅や公共施設を整備することが大きな前提となります。しかし、建物や施設が整備されたからといって、直ちに暮らしが回復するわけではありません。重要なのは、住まい、移動、福祉、交流、買い物、医療、行政サービスなどが、生活圏としてどのように結び直されるかです。復興とは、単に失われた建物を再建することではなく、地域で暮らし続けるための関係を再構築することでもあると再認識しました。
後藤先生の講演から強く感じられたのは、地域デザインにおいては、机上の計画だけでは不十分であり、現場に入り、観察し、測り、対話し、提案し、検証する実践が不可欠であるということです。地域の課題は、建築単体の性能や美しさだけでは解くことができません。道路、移動手段、福祉、教育、商業、住民活動、行政制度、管理運営が複雑に絡み合う中で、人々の生活は成立しています。地域デザインとは、その複雑さを読み解き、具体的な空間や制度、活動へと接続していく実践だと言えます。
一方で、地域デザインを大学教育の中で扱うことの難しさも浮かび上がりました。地域デザインは、建築、都市計画、社会学、福祉、行政、経済、交通、環境など多くの領域にまたがります。その一方で、学問としてはまだ十分に体系化された分野とは言い切れません。そのため、学生に何をどの順序で教えるのか、どこまでを設計教育として扱い、どこからを調査・分析・社会実践として扱うのかという課題があります。
その手がかりは、具体的な観察と実践の中にあります。たとえば、敷地境界を閉じるのか開くのか、植栽を個人の庭にとどめるのか地域の風景へ接続するのか、1階を街に対してどのように開くのか。あるいは、道幅や軒、駐車場、外部空間が人々のふるまいにどのような影響を与えるのか。こうした小さな観察と設計判断の積み重ねの中に、地域デザインの実践的な手がかりがあります。
また、講演と質疑を通じて、地域に立地する大学が果たすべき役割についても考えさせられました。自治体は、日々の行政実務や個別の事業対応に追われる中で、中長期的な地域調査やデータの蓄積、複数の自治体を横断する比較、既存制度にとらわれない提案に十分な時間を割くことが難しい場合があります。だからこそ大学には、地域に継続的に関わり、調査を重ね、知見を蓄積し、地域の将来像を考えるための知的基盤となることが期待されます。
特に東海大学は、湘南地域をはじめ、鉄道網が高度に発達した大都市とは異なる生活圏に拠点を持っています。そこでは、徒歩圏や駅勢圏を中心とした都市の論理だけではなく、自動車による移動、郊外住宅地、ロードサイド、農地や山林、分散した公共施設などが、人々の暮らしを形づくっています。こうした「非都市」とも言える地域の成り立ちを、どのように読み解いていくのかも、今後の重要な課題として示されました。
その意味で、地域デザインにおける大学の役割は、行政や民間事業者の補助にとどまるものではありません。地域を調査し、記録し、比較し、時にはオルタナティブな提案を行いながら、その地域にふさわしい都市や生活圏の考え方を育てていくこと。後藤先生の講演は、東海大学がそうした知見を蓄積する拠点となり得るのかを、改めて問いかけるものでもありました。
質疑では、事業性や不動産的合理性との関係も重要な論点として浮かび上がりました。現代の都市や地域の開発では、利回りや運営効率が強い力を持っています。空間の質をめぐる議論が、最終的には賃料や収益性の問題に回収されてしまうことも少なくありません。その現実を無視して理想論を語るだけでは、地域デザインは実践には届きません。一方で、利回りの論理だけに従えば、どの地域にも似たような空間が生まれてしまいます。地域デザインには、経済合理性を読み替え、地域固有の生活や風景へと接続していく構想力が求められます。
今回の講演は、地域デザインという言葉を、あらためて実践の側から捉え直す機会となりました。地域デザインは、完成された理論を現場に適用するものではありません。まだ十分に体系化されていないからこそ、現場に入り、データを集め、観察し、提案し、検証しながら、少しずつ方法論をつくり上げていく領域です。
都市を語る言葉が、大都市の論理に偏りすぎていないか。建築教育は、敷地の内側だけで完結していないか。地域の生活圏を育てるための技術を、私たちは十分に持ち得ているのか。そして、地域の大学は、その問いに対してどのような知の蓄積と提案を行うことができるのか。

今回の講演は、地域デザインの可能性だけでなく、それを実践し、教育し、地域の中で継続していくためのさまざまな課題を浮かび上がらせるものでもありました。後藤先生、ご講演いただき誠にありがとうございました。
文:森屋隆洋